租税正義の実現

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 僕は40歳前後の頃、TKCの飯塚先生たちと共にフィリピンに訪れた。フィリピンの様々な企業を見学し、その中で、SGVというフィリピンの会計事務所を訪問した。その当時SGVは40年の歴史がある会計事務所だった。フィリピンのマニラに2棟建てのビルを構え、4,800名の社員がいた。その内、4,000名が公認会計士。当時、その企業を率いていたのは、ワシントン・シーシップさんという人で世界会計人協会の会長も務めていた。

 飯塚先生がいたおかげか、夜にワシントン・シーシップさんの自宅に招かれた。そしてたまたま彼と通訳を通じて二人で話す機会があった。僕は質問した。「先生がわずか40年程の時間で、これだけの素晴らしい企業を創り上げた。その原点は何なんですか?」と。彼はニタっと笑って「ただ一つ。会計の業を通じていかにフィリピン国家に尽くすか。それしか私は考えてこなかった。」と言った。
 あぁ、この人は空間的洞察次元が大きいと思った。そして2つ目の質問をした。「有能な社員が沢山いたようですが、社員を選定する基準は何ですか?学歴ですか?学力ですか?人間性ですか?」そうしたら「ただ一つ。フィリピン国家に尽くすという思想を持っていない人間はいれない」と言った。あぁ、企業が大きくなるっていうことはここだと思った。

 まず、経営者が洞察次元を大きくする、それから洞察次元の大きい社員を集めること。そういったことを学んだので、その方向で僕自身も今までやってきた。しかし、様々なことを行う中で、僕自身も洞察次元を大きくするのはなかなか難しいと感じた。そして、洞察次元を大きくするために僕がやったことは、「経理を全部手放す」ということだ。公私混同を一切なくした。公明正大にした。事業上、税務申告が一点の曇りもないものにしようとした。「税金を納めるのは馬鹿らしい」というのは小さい気持ち。まずその気持ちを変えようと。「国家のために尽くす」その為には、積極的な納税意識を持たなければならないと自分に言い聞かせた。

 僕は気付くことができたから、変えることができた。そして、今現在がある。過去3回の税務調査においては何も問題が出てきていない。会計事務所がわずか35年の間に3回も税務調査を受けることなどあり得ないこと。だから、これ僕は自慢だ。つまり、税務署の言う通り動くことはなく、税務署にとってうるさい会計事務所なのである。
 しかし、税務署は敵ではない。敵でもなければ味方でもない。つまり、中立的な立場だ。だが、我々は国家の中で生活しているから、国家に対して背任するということは辞めよう。それが飯塚先生の教えであり、租税正義の実現ということである。

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